まず念のため、用語の説明から
ダブルウォールテントというのは、テント本体を全体的に覆うフライシートと対になって初めて本来の機能を発揮するテントのことを指します。つまり、テント本体とフライシートの2枚の壁ということで、ダブルウォールテントと呼んでるんです。ダブルウォールテントの本体には防水機能はまったくなくて、防水性は外側のカバーの役割を果たすフライシートに依存しています。要するに、ダブルウォールテントはフライシートの存在なくして成り立たないテントなのです。
もうひとつのシングルウォールは言葉の通り、一枚の壁。つまり布一枚で構成されています。だからシングルウォールテントと言います。
ハイテク素材のシングルウォール
シングルウォールテントは、一枚の生地だけで構成されているので、特殊な素材が求められます。屋外で野営する場合に求められる条件は、家屋と同じで雨と風を防ぐことが最低条件となります。
ですからテントの最低条件も雨や風を防ぐことが求められてきます。この条件をクリアするには、単に完全防水素材の使用することで解決されます。
けれど人間の呼吸って、かなりの水分を排出していて、また皮膚からも水分は若干だけど排出されています。運動をした場合は発汗によって多量に水分が排出されますが、普通にしていても水分は排出されているものです。完全防水素材を使用した場合、テント内部では人体や調理などによって発生した湿気が逃げ場がなくなり、湿度は上昇してゆくばかりです。このため、シングルウォールテントはゴアテックスをはじめとする防水透湿素材の使用が不可欠になってきます。(「防水透湿素材」についてはこちらから)
シングルウォールテントは、単純に考えて2枚布のダブルウォールテントと比較して、布1枚少ない分だけ軽くてコンパクトです。またテントのセットアップも布1枚分手間が少なくてすみます。こうしたメリットにより、軽さを追求する登山者からシングルウォールテントは大いに注目され、人気を博した時代やってきました。1グラムでも荷物を軽くしたい!と考える登山者にとって、フライシート不要のテントはまさに魅力的なものでした。
また、防水処理の技術も発達し、一部のメディアではダブルウォールテントをシングルウォールテントが駆逐する時代がくる!という声も聞かれるほどになっていきます。
ダブルウォールテントの急速な進化
ゴアテックスを代表格にするシングルウォールテントが売り上げをのばし始めた80年代初頭から中盤にかけて、ダブルウォールテントの素材はかなり厚く重いものでした。ナイロン繊維の素材でも80年代初頭は70〜100デニールDnのテントは多くありました。この当時は重量やコンパクト性においてシングルウォールテントは圧倒的に軽量・小さなものでした。
ところが、ライペン(アライテント)がダブルウォールテントのエアライズシリーズを発表します。このテントはそのあまりのコンパクト性ゆえに、市場ではその耐久性を疑われる声があったようです。最初はいぶかしんでいた市場でも90年代初頭に入ると、エアライズは一気に大ブレイクします。エアライズはこの間、多くの海外遠征隊などにも使用されて、そのポテンシャルの高さを実績で示していきました。さらに96年にはNEWエアライズが登場します。本体やフライシート(つまりダブルウォール!)に30Dnといった超軽量で薄い素材を用いた、これまでには考えられない革命的なテントでした。やがてエアライズは年間の売り上げ数トップが何年もの間続く大ヒットとなります。
アライテント エアライズ2 スカンジウム仕様 2人用 オレンジ
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このエアライズの大ヒットの要因はなんといっても、圧倒的に軽量で収納サイズも驚異的にコンパクトなところでした。このヒットが意味するものは、大きく2つのポイントがあるように思われます。
1つは登山用テントに軽量・コンパクト路線に拍車をかけたことです。エアライズの1人勝ちが続いた市場では、当然他のメーカーのシェアが下落します。劣勢にまわったメーカーは一斉に「打倒エアライズ」を目標に切り替えます。そしてメジャーなブランドメーカーの小型テントはすべて超軽量・コンパクト性を追及することになります。 |
エアライズ以前のトップシェアを誇っていたダンロップ社は代表モデル「V」シリーズの軽量版となる「VLシリーズ」を発表。紫外線で劣化しやすいナイロン繊維から変更して紫外線劣化に強いとされる超軽量ポリエステル素材を採用。ナイロン製のエアライズにアドバンテージを築きました。続いてモンベル社も強化ナイロン繊維であるバリスティックナイロンを用いて破損に対して強化を図りました。これが超軽量ダブルウォールテント「ステラリッジ」の発表へとなります。こうして国内メジャーブランドから超軽量タイプのダブルウォールが出揃うことになりました。
もう1つのポイントは、ダブルウォールテントの軽量・コンパクト性がシングルウォールテントのアドバンテージを奪ったことです。
もともとシングルウォールにはダブルウォールと比較して、劣っていることもいくつかありました。販売価格では太刀打ちできないほどの開きがありました。また、メンテナンスも手間がかかり、素材そのものが非常にナーバスなので耐久性の面で懸念があったことなどです。
そして、シングルウォールはその特質のために決定的な短所も抱えていました。それは、フライシートを不要したために、フライシートによってつくり出される前室が存在しないということです。前室がないということは、収納スペースに苦労するということです。そうした不安定要素を抱えていたところに、「2枚布でありながら1枚布のテントより軽いし、コンパクト。しかも安い!」といったダブルウォールテントが出現したものですから、シングルウォールテントの勢いはすっかり失速してしまいました。
さて、ダブルウォールテントの仕組みについて書かないとなりません。テント本体(インナーテントとも言ったりします)とフライシートで構成されている二重構造のテントです。インナーの素材は主に薄手のナイロンやポリエステル素材です。これには防水性能(ややこしいけれど、撥水性能はあります)はまったくなく、テント内部の水分をインナーから排出させるためにきわめて通気性の良い素材をもちいているのです。極端な言い方をすれば、女性が日常履いているストッキングのだいたい2倍くらいの厚さの生地がインナーテントの素材だと想像すればわかりやすいでしょう。ストッキングは雨や風を遮断しませんよね。そんなイメージです。
外側のフライシートは防水性のしっかりした素材が使われ、雨や風をブロックします。防水性があるということは、内部の湿度も通さないということです。
そこで、インナーとフライシートの間に緩衝スペースを設け、適度に空気の循環をさせることで、室温や湿度をコントロールするのです。また入り口付近のフライシートは大きく前に張り出して造られているため、インナーとの緩衝スペースが広がっています。これが俗に言う前室というもので、テントの中には入れないけれど、濡れては困るものなど(例えばクツなど)を収納したり、雨の時などはこのスペースで調理もできます。
ダブルウォールテントは、バリエーションに富んでおり、非常に便利なテントと言えます。またメンテナンスも比較的ラクなので、初心者からベテランまで安心して使えます。現在、テントの主流は圧倒的にダブルウォールテントになっています。
これからのシングルウォールテントは・・・
ダブルウォールに比べて、高額・重い・かさばる・ナーバス・前室がない・・・となればシングルウォールにはもはやメリットはないと考えてしまうかも知れません。確かに、ダブルウォールテントでほとんどの場合は事足りてしまうものです。けれども、もうワンランク上のなにかを求めているユーザーにとってシングルウォールはまだまだ魅力的なテントといえるのではないでしょうか?
特に冬場や寒冷地ではシングルウォールを応用的に使うことで結構メリットもあるのです。まず、ダブルウォールテントは風を完全に防ぐことはまずできません。フライシートの裾から入った風はインナーテントの中にまで届いたりします。実際に風の強い時なんかは、室内の炎が風によって揺らめくほどです。一方シングルウォールは風をほとんどシャットアウトしてくれます。実はこの差が保温性にハッキリと現れるのです。ダブルウォールもシングルウォールも内部では火器を使って暖房しても暖気はどんどん逃げてしまいます。けれどシングルウォールははるかにマシです。外部からの冷却効果で次期に冷え込みますが、暖気が布を通過して逃げてしまうことはありません。
また、冬用外張りを使用している時に雨やみぞれが降ってきた場合は、シングルウォールは真価を発揮してくれます。冬用外張りとは、フライシートの代わり保温のために被せるものです。降雪用に想定されており、防水機能はありません。ですから降雨を通してしまいます。このような場合はシングルウォールテントが最高の機能を果たします。1枚布だからシングルウォールテントって言うんじゃないの?って声が聞こえてきそうですけれど・・・。そうなんだけれど、そんなことにこだわらずフライシートや外張りを併用することでシングルウォールの価値が高まります。皮肉と言えば皮肉なんですけれど・・・。外張りが通過させてしまった雨やみぞれはダブルウォールテントのインナーならば室内を濡らしてしまいますが、シングルウォールならばほぼカンペキにブロックしてくれます。
そんなこんなを考えると、私ごとではありますが、やはりシングルウォールが自分のアウトドアスタイルにあっているような気がします。そんなユーザーは結構いたりします。だから、シングルウォールがなくなってしまうことはないと考えられます。
それから!2003年、ICIイシイスポーツがやってくれました!これまでシングルウォールの代名詞的なテント『ゴアライト』の改良版を発売してくれました。『ゴアライトχ』は既存のゴアライトよりも軽量化に成功。1300gをきった重さを実現!!!!シングルウォールに新しい可能性を示してくれました。また、メスナーブランドで有名なニッピンからも『メスナーSFN−Tex』シリーズが発売され、かなり軽量コンパクトに仕上げています。 再び、シングルウォールテントが軽量コンパクトの座につく時がくるかも知れません。
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パイネ ゴアライトXテント2〜3人用

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またこれまで、どうしようもないくらい重くて嵩張るシングルウォールテントしかつくってこなかったアメリカのメーカーも1500gをきるテントを次々に発表してきました。2004年以降シングルウォールテントとダブルウォールテントの重量競争はほぼ互角になりました。
それでもシングルウォールの苦悩はつづく?
前にも書きましたが、シングルウォールは1枚布で構成されているものですから、ダブルウォールテントに比べていろいろ不利な面があります。
アウトドア雑誌などの紙上テストなどでは、よくテントの壁や天井面の浸水ばかりに目を向けています。次に床面からの浸水です。けれども、これはほとんど机上の空論と言い切ってしまってもいいくらい大した問題ではありません。微々たる浸水があるかないかといったところなんです。
実際のフィールドで問題になるのは、入口のファスナー付近からの浸水が隠れた本当の大問題なんです。
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ドアパネルのファスナーには雨よけの黒いフラップカバーがあります。
写真(左)のように雨水はドアパネルの隅のフラップ内側に溜まりやすい傾向があります。
そこで写真(右)のようにドアパネル隅に点線で示したような水抜き口(ドレンホール)が設けられているのです。オガワテント、モンベルエスパース社のシングルウォールにも装備されています。 |
写真の○の部分に雨水などは溜まりやすく、ファスナーの小さな隙間からの浸水が一番深刻な問題なのです。ユーザーの心配する面とメーカーが心配する面の違いもここにあります。
このファスナー付近の排水処理が大切なのですが、これにいち早く対応したのがオガワキャンパル(旧オガワテント)とモンベル社でした。この二社は入口のファスナーをカバーしているフラップの下端に排水口を設けました。両者の排水方法は微妙に違っていますが、それぞれ実用新案されていて、他のメーカーはこの仕組みを長い間取り入れることができませんでした。こうした状況の中、エスパース社は独自のアイデアで乗り越えました。上記の排水システムはアルファベットのUを逆にしたような入口に対しての排水方法ですが、エスパースは入り口を四角くしてファスナーを一周させることで全方向から開閉を可能として、さらにドアパネルを着脱可能にしてしまったのです。ファスナーを覆うフラップには下の部分だけに排水口をつけて排水処理を克服しています。すごい、すごい!
さらに2004年にはライペンのゴアライズシリーズも逆U字の入口の全方向にファスナーを渡して一周させる作りに切り替えました。そして独自の排水処理を施して問題をクリアしました。これでメジャーなテントメーカーのシングルウォールテントは入口付近からの浸水対策を解決しました。
私が考えるに、シングルウォールテントのこれからの命題は「価格」と「ゴアテックス以外の素材の採用」をクリアしなければならないと思うんです。この2つは密接にリンクしている問題だと思うので、一緒に説明してしまいます。
シングルウォールテントの代表的な素材だったゴアテックスは、アウトドアライフに大きな革命をもたらした素材ですが、問題点も多く抱えている素材でもあるんです。屋外といった厳しい条件下で使用するにはゴアテックスはあまりにもナーバスな素材です。それなりに注意しながら使用すればいいんですが、無神経な使い方をするとたちまちゴアテックスはその機能はたちまち失われてしまいます。
また、防水性能を示す耐水圧は問題ないにしても、室内の湿気を排出する透湿性能は十分だとは言えません。一般のユーザーがシングルウォールを初めて使った場合(特に冬場などで)は、透湿性の低さに驚くケースが多くあります。悪口なんて書くつもりはまったくないんですが、同社の広告なんて読むと「ドライにキープ・・・」なんて書いてあります。となれば、こうした広告を信じたユーザーは結露が発生すると広告のコピーと現実のギャップにガッカリしてしまうんです。ガッカリしてしまう気持ちは十分理解できます。ユーザーはダブルウォールよりも一割以上高価な金額を出してまで透湿性能に期待をかけているのですから!
ですから、ゴアテックス以外のもっと透湿性能が優れた素材を使って、内部の結露を減らして、また価格も落として欲しいものです。
自分でもかなり厳しい要求をしているとは思いますけれど・・・。
ますますダブルウォールの時代に・・・?
一方ダブルウォールテントは現在でも圧倒的なシェアを誇っています。ダブルウォールは、その構造から非常に豊かなデザインのバリエーションがあります。フライシートをさまざまなスタイルに設計することにより、荷物の収納を多くすることができます。例として、自転車で移動するいわゆるツアラー向けに開発されたツーリング用テントなどは、前室に自転車までも収納できるテントがあるほどです。


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